こんにちは、電通総研の金子大地です。
この1年、所属するコミュニケーションIT事業部において、「若手プロジェクトマネージャー(以降「PM」)の育成活動」を行ってきました。その「活動内容」(前編)と「コンテンツ概要」(後編)を学生さん向けに紹介します。
多くの学生さんは、「PM」という言葉を聞いたことがあっても、具体的な仕事内容までは想像できないと思います。また、PMはプロジェクトチーム(多ければ50名以上)の責任者として推進役を担いますが、「そんなことが自分にできるんだろうか」と不安になりませんか。
電通総研には、PMとしてのチャレンジの舞台と、先輩社員をはじめとするサポート体制があります。この記事が、学生のみなさんの「PM」という仕事への理解のとっかかりとなり、不安を軽減し、電通総研でPMをやってみたいかも!と興味を持つきっかけになるとよいなと思います。
また、社会人の方で、電通総研に興味を持っている方にも読んでいただきたいので、ぜひお付き合いください。
1. はじめに
プロジェクトとは
PMBOK(Project Management Body Of Knowledge)の定義では、「独自のプロダクト、サービス、所産を創造するために実施する有期的な業務」です。つまり、この世にひとつのアウトプットを生み出す、明確な開始・終了のある活動が「プロジェクト」です。世の中には様々なプロジェクトがありますが、本記事では「システム開発プロジェクト」を扱います。プロジェクトの成功とは
プロジェクトの成功は、古くからIron Triangle(鉄の三角形)と呼ばれる「Q/品質・C/コスト・D/納期」の達成具合で判断されてきました。その後、「QCD」だけでなくプロジェクトの活動や成果に関与するステークホルダーの満足度で評価すべきという意見が増え、さらに近年では価値ある成果を提供したかが重視されるようになりました。何をもって「プロジェクト成功」とするかは、議論の対象になるものなのですね。
私はプロジェクトの価値を高めるために、トレードオフの関係にある「QCD」のちょうどいいバランスをとって完遂し、関わったお客様・プロジェクトメンバーが満足している(また一緒に仕事したいと思ってもらえる)、という状況を達成する必要があると考えています。PMとは
PMはプロジェクトチームを率いてプロジェクト目標を達成する責任を負っているので、「プロジェクト成功のために何をしたらいいかを考えて行動し続けること」が求められます。抽象的ながらこれが本質だと思っていますが、もう少し補足すると、PMは「プロジェクトの全てを自分事化して向き合い、プロジェクト特性をふまえた計画を立ててコントロールしつつ、状況変化に対する柔軟な対応」が求められます。
2. 電通総研におけるPM育成活動
2-1. 会社全体でのPM育成の取組み
まずは、電通総研の会社としての取組みをご紹介します。
キャリアプランの提示
電通総研では、現場配属されてすぐにPMを任されることはありません(少なくとも私は見たことがありません)。「業務スペシャリスト」をしっかり経験してからPMを目指すなど、個人の希望・特性を考慮して段階的にPMになることを会社として推進しています。
※ こちらのページの[キャリアステップ]をご参照ください
※ 以下にリンク先の図を引用しつつ、キャリアの「例」を追記しています。あくまで「例」なので、その点はご注意ください(この通りにキャリアを歩むことが約束されているわけでも、これが正解というわけでもありません)。
育成プログラムの提供
キャリアを積むためには、適切なスキルの獲得が必要です。電通総研では、スキル獲得のために多数の研修を提供しており、社費で受講できます。また、資格も社費で取得できます。
PM関連の研修だけでも2024年に26講座を提供しており、延べ638名の社員が申込んでいます。また、PM関連の資格では、PMIが提供している「PMP(Project Management Professional)」、およびIPA(情報処理推進機構)が提供している「プロジェクトマネージャ試験」などを対象に、資格試験の対策・受験、資格維持に関わる費用を会社が負担しています。
※ こちらのページの[教育体系]をご参照くださいプロジェクト実践時の支援
上記で獲得したスキルを実際のプロジェクトで実践できるように、「標準開発プロセスの提供」と「プロジェクト管理の支援」をしています。標準開発プロセス(i*yes:アイズ)はCMMI、ISO9001を参照して作られており、プロジェクトマネジメントを含めた開発の手順を定義しています。「プロジェクト管理の支援」は、提案・計画時などの主要なマイルストーンで、プロジェクト外部のメンバーがプロジェクトリスク等を確認します(RB:レビューボード)。
※ こちらのページをご参照ください
2-2. 現場におけるPM育成活動
電通総研には、組織的な仕組みが用意されていることをご理解いただけましたか。
ですが、やはりこれだけでPMを「実践」するには不安が残るヒトも多いことでしょう。知識を習得しただけで優秀なPMになれるわけではありません。例えば「PMP」では、あらゆることを考慮し尽くしたプロジェクトマネジメントを学びますが、実際のプロジェクトで全ての領域を全力で実践すると、お客様の考える予算・期間に収まりません。また、プロジェクト実践時に支援してもらえると言っても、実際にプロジェクトを主体的に動かしていくのは自分自身です。
IPAでもPM育成においては「研修」だけでなく、「OJT」や「メンタリング」の重要性を説いています。
そこで、電通総研では従前から、OJTに加えて「メンタリング」として、技術の現場組織のアチコチで「実践的なPMノウハウ」を共有してきました。簡単に言うと、「プロジェクト管理の体系的な知識を、実際のプロジェクトにはこうやって適用する」ということを学べる活動です。業務の傍ら「PM塾」と称して先輩からシリーズもので教わったり、部会発表で若手が自身の学びを共有して先輩に突っ込んでもらったりと、学習する文化があります。私もこうした活動の一端を担った形でして、それをご紹介します。
※ 補足:プロジェクト特性に応じたプロジェクトマネジメント
各プロジェクトには様々な特性があります。小規模プロジェクトなら力業(ちからわざ)で何とかなることも、大規模プロジェクトではそうもいかず、より計画的に進める必要があります。人命・お金に関わるシステムの場合、そうでないシステムよりもイチ段高い品質が求められます。逆に、初期リリースの品質は ”そこそこ” でいいから、とにかく早期に利用開始したい、と要求をいただくこともあります。
したがって、PMP等で知識を得つつも、目の前のプロジェクトでは、予算・期間の制約やお客様の求める優先事項を考慮して「ちょうどいいバランス」でマネジメントする必要があります。そして、一概には言えませんが、それぞれの事業部におけるプロジェクトには似通った特色があるため(進め方が近い/共通する製品を扱う等)、各事業部内でPM育成活動が行われることは、理に適っている面もあります。
3. 私が行った活動の内容
3-1. 私がなぜPM育成活動をしたのか
若手PMは、先輩社員のサポートを受けながらPM経験を重ね、やがて独り立ちします。ですが、簡単には独り立ちできません。「一般知識(研修・資格等)」だけでPM遂行はできず、かといって経験できるプロジェクト数はさほど多くありません(感覚的には、プロジェクト1件あたりの開発期間は6ヶ月~2年くらいが多いです)。
したがって、一般知識と実プロジェクトとは別途、「メンタリング」に主眼を置いた学びの場を提供することで、PMとしての独り立ちを支援したいと考えました。「どう考えて行動するのか」といった本質的な理解を重視しつつ、「実プロジェクトで利用できるテンプレート」も提供し、役立つ活動になることを目指しています。
3-2. PMとしての暗黙知の資料化
PMPや研修では学べない「実践的なPMノウハウ」、特に「暗黙知の言語化」を意識して資料化し、所属組織(コミュニケーションIT事業部)に展開しました。コンテンツ概要は、[後編]でご紹介します。
現時点で展開済の資料(パワポ)が「計800ページ超」とボリューミーなので、週イチで社内のコミュニティに解説メルマガを投稿して、資料を読まなくても概略を理解できるようにしました(なお、それでもなかなか読まれないことを見越して、次項[3-3]の取組みをしています)。
ちなみに、別事業部から「PM経験が浅い中途採用者に学んでもらいたい」とお話があったり、グループ会社の方から「社内の人材育成に活用したい」とお声が掛かったりして、所属組織を超えて資料提供をしています。思わぬ反響もあるのだな、と嬉しい誤算でした。
3-3. 若手PMへの改善提案
若手PMが直近で担当したプロジェクトについて、私を含むメンバーが一緒に「振返り」をして、今後に向けた改善対応を考える、というものです。若手PMの「上長(マネージャー)」にも参加してもらうことで、ディスカッション後の改善活動を継続的にフォローしてもらっています。なお、「若手PM」と書いてはいますが、実際の対象者は「社会人4年目~15年目」と、社会人歴で言うとベテランの人もいました。
具体的には以下の流れです。
若手PMに、特に「自分が課題と思っていること(うまくできていないこと等)」を書面で事前ヒアリングし、「どうしたら改善できるか」を対面でディスカッションしました。例えば、「お客様に依頼した作業が頻繁に遅れて、プロジェクト全体が遅延しがち」という課題認識がある場合、「そもそも電通総研から分かりやすく依頼内容を伝えられているか」、「お客様に検討していただくために、電通総研から提供している情報は充分か」、「お客様の繁忙時期をスケジュールに反映できているか」等の実態を若手PMに説明してもらい、なぜお客様の回答が遅れるかの真因に対しての打ち手をディスカッションします。
ありがたいことにディスカッション後のアンケート回答(若手PM、その上長)は総じて満足度が高く、「他案件の進め方を知る機会となってよかった」、「計画書等のPM資料のテンプレートが役立ちそう」といったコメントが多く見られます。やはり、自分が経験できるプロジェクト数は多くないため、他プロジェクトの進め方を効率よく把握でき、自分流のPMスタイルをブラッシュアップできる場は貴重なのだと思いました。
また、「改善点だけでなく、よい点はよいと評価してもらえたことが自信につながった」というコメントもあり、「なるほど」と思いました。私自身も若手PMの時にはおっかなびっくり「これでいいのかな?」と迷いながらプロジェクトを進めていた記憶があります。確かに、先輩PMに認めてもらうと安心や自信につながるな、と思いました。
おわりに
電通総研には、「PM」に必要なスキルを学ぶ環境、そして独り立ちを支援する環境があることをご理解いただけましたか。
次回の[後編]では、私が社内展開した「PMノウハウ」のコンテンツ概要を紹介します。またお会いしましょう!
電通総研でPMをやってみたいと思った方は、ぜひ下記もご参照ください。
執筆:@kaneko.taichi、レビュー:@nakamura.toshihiro
(Shodoで執筆されました)