去る10/9に実施されたIPAさんの秋期情報処理技術者試験ですが、最近は試験直後に過去問が公開されるようになっているのを知っていますか。最近の過去問はなかなかに味わい深いと思っているので、所属部門で「味わう会」をやってみた、というお話をご紹介したいと思います。金融ソリューション事業部 石沢がレポートします。
ISIDでは応用情報以上の情報処理技術者試験の受験は強制でなく、昇格などの条件でもありません(新卒採用の場合、基本情報技術者資格の取得は原則必須としています)。一方で、受験費用は社費負担ですし、通信教育を利用することも可能です(通信教育は修了かつ試験に合格すれば社費負担になります)。というわけで、自分のスキルアップ、腕試しなどで利用しやすい制度となっています。余談ですが、情報処理安全確保支援士など合格後に資格を維持する場合の費用も同様です(助かる~)。
今回紹介した過去問
時間の関係もあったので、令和4年度秋期情報処理試験のうち以下の過去問、試験区分を取り上げました。
- プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰと午後Ⅱ
- データベーススペシャリスト試験 午後Ⅰ
- システム監査技術者試験 午後Ⅰ
過去問はこちらのURLから参照可能です。以下の記事が面白いと感じられた人は実際の問題もぜひご確認ください。 IPA 独立行政法人 情報処理推進機構:過去問題
なお実際の「味わう会」は実際の試験日(10/9)の3日後にスピード勝負でやってみました。受験したばかりの人の記憶が薄れないうちに……
過去問の紹介方法
紹介の目的は問題の正解を解説することでなく「試験問題を面白がる」ことにフォーカスしていたので、
- ざっくりどんな問題が出たかを見てみる
- 受験した人が感想や意見を述べる
という感じで紹介をしました。
個人の感想ですが、IPAの情報処理技術者試験は継続的にアップデートされ、特に高度試験では日常われわれが直面するような課題を提示していると思っています。最近のトレンドなども割と反映されているのが味わい深いです。
具体的な紹介内容(プロジェクトマネージャ試験 編)
午後Ⅰ問2:ECサイト刷新プロジェクトにおけるプロジェクト計画の問題
- 情報システム部の部長(兼PM)となった気持ちで、老舗アパレル企業のECサイトを刷新するプロジェクトを担当する
- 仮想店舗(メタバース)を活用した新規事業開発がテーマ
- 新技術への匂い(DevOps、仮想店舗)
- 以上を背景にプロジェクト計画を立案する
- プロジェクトの最優先課題は何か
- 知見蓄積のためにどういう活動が必要か
- CI/CD導入のために組織を超えて行う活動は何か
顧客が自宅にいながらアバターとして仮想店舗に来店して試着できるシステム開発プロジェクトのPMとは……。ちょっと想像しただけで大変そうです。ざっくりとした問題を紹介した上で、あーだこーだと意見交換しました(以下、同様です)。
午後Ⅰ問3:プロジェクトにおけるチームビルディングに関する問題
- 支配型・統制型リーダーシップが支配する玩具製造業F社においてDX推進を進めるプロジェクト。CDOが旗を振っており、そのもとでシステム部長G氏がPMとしてプロジェクトをけん引します
- PMはDXを実現するために事業戦略的なITプロジェクトが必要と判断。部門横断のチーム組成を行い、自己組織化されたチーム作りを目指します
いわゆるDXプロジェクトのPMです。いやぁ、こんな問題が出るとは(遠い目)。
午後Ⅱ問2:ステークホルダーとのコミュニケーション
午後Ⅱは小論文を書く問題です。問2は自身の経験に基づき「ステークホルダーとのコミュニケーション」について記述する問題でしたが、実際に受験をしてこの設問を選んだ人にどのような事を書いたのかを紹介してもらいました。
具体的な紹介内容(データベーススペシャリスト試験 編)
午後Ⅰ問1:アフターサービス業務の概念モデリング
- 住宅設備メーカーA社が、アフターサービス業務のシステム再構築プロジェクトで業務分析を行い、概念データモデルと関係スキーマを作成したという状況
- 問題文には業務分析のヒアリング結果と、新システムでの要求事項が(自然言語で)ズラーっと書いてある
- 設問は、まず現状の概念データモデルを完成させ、次に新システムの要求事項を考慮した修正後の概念データモデルを穴埋め問題で完成させるもの
受託開発などのシチュエーションでよくある局面です。特に要件定義などを実施する人はさらっと解きたい。
午後Ⅰ問2:クラウドPaaSを用いたデータベースの実装
- 専門商社のBは見積システムのマスター保守改善を行いつつ、パブリッククラウドへ移行する方針
- 見積システムでは商品履歴の管理が出来ていないので、まずこれはDBトリガーでなんとかする
- さらにクラウドリフトするので、非機能の検討も行った
- 設問は上記の結果の穴埋め問題
保守小規模エンハンスでもありそうな機能レベルアップをDBMSだけでなんとかする問題と、クラウドリフト案件として非機能要件(RPOやRTOなど)検討という、二つの問題を合体させたような欲張りな問題です。
午後Ⅰ問3:オンプレ販売管理システムのDBパフォーマンス改善
- 事務用品販売C社の運用中の販売管理システムにおけるRDBMS課題に関する問題
- 主要なテーブル構成、業務利用方法、現在の課題(業務ピーク日にバッチ遅延が原因の出庫遅延発生)が本文で説明されている
- 分析の結果
- 問題は上記①~③の穴埋め問題、およびそれぞれの作業に関するリスクを文章で答えさせる形式
DBパフォーマンス改善、これもよくある話ですね。
具体的な紹介内容(システム監査技術者 編)
午後Ⅰ問1:ECサイトにおける改正個人情報保護法対応の十分性の監査
- 個人情報を取り扱うECサイトに関して、改正個人情報保護法の対応が適切にされているかを監査する問題
- サイトに関する監査の結果(予備調査、本調査)が問題文には示され、「どうしてそのような結論になったか。その際に調査すべき観点と対象は何か」を答えさせるもの
システム監査の観点だけではなく、改正個人情報保護法の論点も理解できる問題でした。
午後Ⅰ問2:リモートワークに即したWF利用等業務改善の推進状況の監査
- 数年前にワークフロー(WF)システムを導入済の企業が、コロナ対策でリモートワークを推進したことをきっかけに「働き方改革」「業務効率化(申請事務の廃止やペーパーレス化)」を現在全社的に推進している
- 経営方針に即して対応が進められているか監査を実施した。監査の結果が問題文で示され、問ではそれぞれの調査をどのように行ったのか(確認手段と確認観点)を回答させる問題
極めて現代的な問題。ISIDもリモートワークを推進していますが、業務効率化って大変だなとしみじみ感じられる問題です。
午後Ⅰ問3:金融機関のシステム運用(再委託)適切性の監査
- 金融機関Cは、クラウドサービスの活用なども進めているが、一方で既存システムの安定稼働は重要な経営課題と認識。システム部は情報システムの安定稼働の対策を継続して実施中
- C社は運用を子会社D社に委託。D社は複数社に再委託している。夜間の運用は再委託先のみで実施しているが、障害発生時にD社保守担当に連絡が取れない事もあるので、その場合はD社運用管理部責任者の承認により必要最低限の対応を行うことになっている
- この状況を監査するにあたって、予備調査でいろいろと気になる点が出てきた。それをもとにどのような本調査を計画するかが問題となっている
「味わう会」を実施した金融ソリューション事業部としては、まさに日常的な風景な問題です。監査の際にどのような点が論点になるのかもわかる問題でした。
やってみた感想
参加者からは「想像していたよりも実務的な内容でびっくりした」「自分のチェックしていなかった試験区分に興味を持てた」などのリアクションがありました。
ソフトウェアを開発するにあたっては、スキルと経験が重要だと思っています。スキルはいいとしても、多様な経験を積むには時間を要するので、こういった問題に触れることは不足する経験を補う良いトレーニングだと考えています。
世間的にも、また当然社内でも「資格試験は実務と乖離していて、勉強する意義はない」「内容は古臭くて、現代の業務に合っていない(から勉強する意味はない)」といった声があるのは事実ですが、実際に問題を眺めてみるとそうではないことがわかります。
本記事で興味をもった皆さんには、周囲の方と一緒に問題を眺めながら意見交換してみることをお勧めします。
私たちは同じグループで共に働いていただける仲間を募集しています。 金融システムプロジェクトマネージャー 他多数募集中です。
仕事をしながら学ぶことへの支援制度は今回ご紹介したもの以外も充実しています。また、情報処理技術者試験の過去問を語り合ったりする組織に興味のある方も、ぜひご検討よろしくお願いします。
執筆:Ishizawa Kento (@kent)、レビュー:@nakamura.toshihiro (Shodoで執筆されました)