電通国際情報サービス Advent Calendar 2022 の12/13の記事です。
XI本部 オープンイノベーションラボの飯田です。
今回は、ヘルスケア×ITっぽい領域の論文の紹介になります。
最近、デジタルヘルスやデジタルセラピューティクス(DTx)といった、デジタル技術で病気の予防や診断・治療を支援することがトレンドになってきています。
ISIDでも、VRをつかった幻肢痛に対するセラピーや錐体外路症状(EPS)重症度判定など、ヘルスケア×ITの取り組みを進めています。
業務インプットのために医療×ITの論文を調べていて、面白く・身近に感じられた論文を紹介します。
内容は「ポケモンGOによってうつに効果があるのか?」です。
DISCLAIMER 記載内容の信頼性については可能な限り十分注意をしていますが、正確性・妥当性等を担保するものではありません。 該当論文の内容を参照しておりますが、医学的な内容も含んでおり、ご自身の判断にてご覧ください。一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。 情報の誤りや不適切な表現があった場合には記事の編集・削除を行うこともございます。
論文情報・Abstract
Cheng, Z., Greenwood, B. N., & Pavlou, P. A. (2022). Location-based mobile gaming and local depression trends: a study of Pokémon Go. Journal of Management Information Systems, 39(1), 68-101.
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/07421222.2021.2023407
位置情報ベースのモバイルゲー ム(ポケモンGO)が公衆衛生の大きな問題である うつ とどのような関連するかを統計的因果推論DIDを使って調べた論文です。
モデリングの結果、ポケモンGOの導入が短期的にうつを減少させることを示唆しています。
研究のアイディア
Google Trendsから地域のうつ傾向を推定する
この研究では、地域のうつ傾向を捉えるために、Google Trendsのデータを用いてうつ病の地域傾向を推定しています。
先行研究を参考に、各地域のうつ病関連の用語(例、depression、stressなど)に対する Google トレンドのデータを使用して、地域のうつ傾向を0から100のスケールで推定しています(100が最大・0は最低)。
2016年1月1日から12月12日までの50週間を対象に算出しています。
ポケモンGOの段階的リリースを利用し、統計的因果推論(DID)を行った
Google Trendsから地域のうつ傾向を時系列で算出したのち、その時系列データに対してDIDを行い、ポケモンGOの治療効果・介入効果を推定しています。
DIDとは、差分の差分分析(Difference-in-differences design)であり、統計的因果推論の手法の1つです。
RTCの実験ができない(介入を行ったグループのデータは取得可能だが、非介入グループとなるデータが得られない)場合に有効な手法です。
※DIDについての詳細は、津川先生の解説ページ等をご覧ください
差分の差分分析(Difference-in-differences design) – 医療政策学×医療経済学
ポケモンGOは、2016年に英語圏の12カ国166地域に段階的にリリースされました。
リリースタイミングが時間的・地理的にずれているため、DIDの考え方に則り、ポケモンGOの治療効果・介入効果を推定しています。
リリースされていない地域を”ポケモンGOの治療・介入を受けていない対象群”とみなし、ポケモンGOリリース前後でのうつ傾向の変化を捉えます。そして、同時にリリースされていない地域のうつ傾向の変化を考慮することで、治療効果・介入効果を推定します。
ポケモンGO治療効果のモデリングとその結果
ポケモンGOの処理の前後で週ごとに効果を観察・推定するために以下のような式でモデリングを行っています。
- yjt:t週目のj地域での地域のうつ傾向 - 本研究での従属変数 - γj :地域の固定効果 - λt:週の固定効果 - Pre-PokemonGo jt (k):地域j でのゲーム発売から介入前 t 週までの期間が k 週である場合に 1 に等しくなる指標 - ポケモンGOのリリース前の週をベースラインとするためn Pre-PokemonGo jt (−1)を0で正規化を行った - β1 :係数(β1が負であれば、ポケモンGOの導入がうつ減少を示す) - PokemonGo jt (k):t週の時点で地域jでゲームがリリースされているかどうかを示す(リリース済みであれば1、なければ0) - Post-PokemonGo:地域j でのゲーム発売から介入後 t 週までの期間が m 週である場合に 1 に等しくなる指標 - 推定は最小二乗法でおこなう
その結果は以下のようになっています。
ポケモンGO導入直後に、 β1の値を見ると、地域のうつ傾向が有意に減少していることが読みとれます。
そして、その効果は数週間持続していて、6週間ほどでこの効果は消失しています。
これは、ポケモンGOの人気と連動しています(ピークが2ヶ月弱で、ゲームから離脱する人が多くいた)。
一方で、ポケモンGOのリリースと、自殺関連の検索の間には相関がないそうです。
つまり、ポケモンGOは、重度のうつには効果がない可能性が高いと考えられます。
まとめると、ポケモンGOは軽度なうつに対して、短期的な効果があると示唆されました。
理論的背景・メカニズムについて
ポケモンGOがうつを減少させるメカニズムとして、3つのメカニズムが考えられるそうです。
プレーヤーの身体的活動の増加
別の研究では、ポケモンGOのプレイヤーが1日に1,500歩程度、身体活動を増加させたことを報告しています。
身体的活動によって、精神衛生上の利点をもたらすと多くの医学研究が指摘しています。ゲームプレイを通じてオフラインで社会的つながりを持つこと
人々が交流し、積極的に経験(ゲームのノウハウ等)を共有すると、その後ストレスや不安が減少するとされています。屋外に出て自然と触れ合うこと
公園などの自然に触れるだけでも、反芻(はんすう:自分自身のネガティブな側面について繰り返し考えること)が減少し、うつ病を緩和するとされています。
ポケモンを捕まえるためには屋外を歩き、周囲を探索しなければならないため、身体活動が増加する。
ゲームをプレイする中で、交流することがあり、社会的つながりを持つことができる。
ゲームの主な機能(ポケストップやポケジムなど)は、公園などの自然がある場所に多くあり、自然と触れ合うことができる。
この3つの条件・メカニズムによって、うつが減少していると考えられます。
逆に、この上記3つのメカニズムを持たないゲームを行った場合、逆のにうつが増加することも観察されたそうです。
まとめ
今回、ポケモンGOはうつに効果があるという論文を紹介いたしました。
スマートシティに代表されるように、IT技術やサービスがより生活と密接するようになり、公衆衛生や市民の生活のためになる機会は今後増えていくと思います。
先端IT技術をうまく活用し、社会課題解決とビジネス両方で価値を出せるモノを作っていければと思っています。
私たちは同じグループで共に働いていただける仲間を募集しています。
ヘルスケア×ITのように、デジタル技術を社会課題解決につなげるようなプロジェクトを推進していきたいプロジェクトマネージャーやエンジニアを募集しています。
執筆:@iida.michitaka、レビュー:@yamada.y (Shodoで執筆されました)